【前回までの星唄M】
ついに「光の神」となった冒険者。そして向かった女神アルタナのいる世界。
女神から聞かされたのはこの世界の成り立ち。世界が対となる存在の起こす
「風」で雲を吹き飛ばしてきたこと。ヴァナ・ディールにおいては、
男神プロマシアがいなくなった時点で、均衡が崩れいつかこのような事態になることが
予想されていたということだった。新たな闇の神、光の神となった分かたれたもう一人と
冒険者は全力でぶつかることによりこの「風」を起こし、「雲」を吹き飛ばし、
ヴァナ・ディールは救われた……かに思えた。
■ 雲ひとつなし
分かたれたもう一人は役目を終え、冒険者の中に戻ってきた。
冒険者は再び「人」に戻り、還ってゆく……。
見送る女神の言葉を聞きながら。
冒険者は醴泉島の祠のクリスタルの前に戻ってきた。
テンゼン、アルド、ギルガメッシュが待っていてくれた。

テンゼン
冒険者殿!やりもうしたか!?
暗闇の雲を、打ち払うことできたでござるか!?
静かに頷く冒険者を見て、ほっとする三人。
ギルガメッシュの話によると、冒険者がいない間に急に大嵐がやってきて
大きな衝撃が襲ってきたらしい。
その「大嵐」こそ、闇の神となった分かたれしもう一人と、
光の神となった冒険者が起こした「時の風」のことだ。
ヴァナ・ディールの未来が闇に包まれることはなくなったと喜ぶ一行。
アルド
「選択の時」が無事に終わり、イロハもクリスタルの中でほっとしていることだろう。
ここに戻ってくるときに途切れがちではあったが、
女神アルタナはイロハの姿は今しばらくは保たれることを言っていたはずだ。
全てが解決した今、イロハがどうなるか、そのことくらいは冒険者にも察しはついていた。
だが、まだイロハとは話が出来るはず。
イロハ
師匠……。
またも、出戻り娘の再来でございまする。

少し気まずそうな表情でイロハがクリスタルから出てきたのだった。
テンゼン
イロハ殿!
そなたの導きがあればこそ、成し遂げられた旅でござった!
今更ながら、労をねぎらわせていただきたい。まずは祝いの宴などを開き……
イロハ
テンゼン殿。相も変わらず、浮かれポンチでございますな。
その言葉を聞いてオロオロするテンゼン。
少し前まではヴァナ・ディールの危機に直面し、張り詰めた雰囲気だったのに、
今はすっかり和らいでいる。以前の日常が戻ったのだ。
イロハに促され、外へと向かう一行。
三人の後ろに着いていく冒険者にイロハが駆け寄ってきた。
イロハ
実はわたくし……暗闇の雲の脅威が去った今……
それほど長くは、この姿を保てませぬ。
やはりそうか、と冒険者は思った。
イロハ
しかし最後に、平和になった世界を師匠と共に眺めたく……。
冒険者はイロハとの最後の時間を惜しむようにゆっくりと祠の外に出た。
虫の声が聞こえる。

■ 終わりなき唄
テンゼンたちとはかなり距離があいてしまっていた。
脅威が去ったことを喜びあう三人の声が、静かなこの地に響いていた。
青竹の香りが軽く鼻腔をつく。
少しひんやりとした風が、イロハの頬をなでた。

イロハ
ああ、なんと心地よい風。
ようやくヴァナ・ディールのこの時代をまっさらな気持ちで眺めることができ申す。
イロハは世界を救ってくれた感謝の想いをこめて自分の師匠に深々と頭を下げた。

だが……この救われた世界はすでにイロハの存在する未来に向かうことはない。
だから、イロハは冒険者の名を呼んだ。
「<冒険者>殿。」
未来を守る大事な決断をし、
世界を救う大事な決断をし、
闇と光を極めて、そして、ヴァナ・ディールを救った冒険者。
イロハは、自分が冒険者に弟子入りしたときに、
一番最初に教わったことが「諦めぬ心」だったと話した。
そのときをまぶたの裏に思い浮かべているのか、
瞳を閉じたイロハの横顔を冒険者は見つめていた。

その「諦めぬ心」の教えがあったからこそ、
未来でたった一人でいた時にも、最後まですがりつけたのだと語るイロハ。
そして、この時代でイロハは冒険者の「諦めぬ心」を目の当たりにしてきた。
イロハにとっては自分の知る師匠の原点を見た思いだったであろう。
イロハ
この世界がある限り、師匠は歩んでいくのでございましょう。
私めが憧れた、あの輝かしい道を。
そのお姿を、私めは想像するほかございませんが……
師匠と共に過ごした修行の日々は決して忘れませぬ。
イロハ
師匠。

イロハ
私めは師匠の弟子として大成できたでございましょうや?
冒険者がその問いに答えると、イロハは頭を下げた。
冒険者の持つ勾玉があたたかい光を帯びる。
イロハも何か察したようだ。
その輝きが増したとき、二人の絆がこれまで以上に深まるのを感じた。
と、同時にイロハの身体が薄らいでゆく。
イロハ
……ああ、もはや、残された時間は少ない様子……。
どうか、振り向かずに。
未来へとお歩みください。
行くしかないのだろう。
冒険者は前を見据えた。
どうか、振り向かずに。
イロハ……。

冒険者は少し歩みを進め、立ち止まる。だが、振り向くことはしない。
そして、意を決してその場から立ち去った。
いつかまた未来でイロハと出会えることを願いながら。
たとえ、そのイロハは冒険者のことを知らなかったとしても。
去ってゆく冒険者を象徴するかのように、少し強い風が吹く。
イロハはその風を一身に受けていた。
師匠に褒められた黒髪がその風になびく。

そして……その風と共にイロハは消えた。
冒険者はギルガメッシュたちが乗ってきた船に乗ってノーグに戻ってきた。
いたって穏やかな海路ではあったが、アルドはまた船酔いをしてしまったようだ。
テンゼン、ギルガメッシュ、アルドそれぞれに本来の稼業に戻り、
冒険者もまたいつもの旅に出ようと、その支度のために故郷へ戻っていった。
平和になったヴァナ・ディール。
もう何も心配することはないだろう。
冒険は続くのだ。そう、永遠に。
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お約束
・ 前提として、全てのミッションをクリア済み(三国ミッションも三国全てクリア済み)の状態でミッションを進めているとお考えください。
・ 登場人物も多いため、人物登場時にできるだけ違和感のない感じで説明を加えるようにしていますが、詳細な設定などについては、あえて省く場合があります。
・ 自身の感想部分については、該当部分をクリア時にメモした当時の感想をまとめています。
ストーリーを知っている方は周知のことですが、
最終回までまだ少しありますよーと一応最初にお断りしておきます。
まだ女神の最後の言葉の謎も残っていますし、まだ続くのは当然ですね。
ここまでずっとイロハはいい子だと思ってみてきてはいましたが、
最後の別れのシーンでイロハが「いい子」から「可愛い私の弟子」になりました。
何せ、彼女はしっかりしているし、私の中ではやはり自分が師匠というよりは、
本当に「仲間」という感じだったんです。
彼女の言葉遣いと相まって、すごくいいですね。
このニュアンスが海外の方には伝わりにくいであろうことが残念で仕方ないと思うほど。
そして、イロハが呼んでくれたプレイヤーの名前。
真意はシナリオライターの方しか分からない訳ですが、
私はイロハの敬意と切なさが伝わる会話だと思いました。
その後また「師匠」呼びに戻るところがまた秀逸。
NPCに親しく名前を呼ばれることって、これまでは嬉しいことでしたが、
イロハに名前を呼ばれたときは、私はどこかさびしさすら感じました。
この辺りのシナリオは実に心の機微を捉えていて好きでしたね。
あと、カメラワークも素晴らしかったと思います。
ここまでのシーンを終えたあとずっとモヤモヤしていました。
それはアルタナの言葉の謎もありますが、
終わったあとのミッション内容を確認すると
イロハは消滅してしまったが、となっていて、これ絶対解決してない!って。
平和になったヴァナ・ディール。
セルテウスのクリスタルは輝き続け、
ひんがしの虚ろなる闇も、いつか晴れていくことだろう。
しかし冒険は続くのだ。そう、永遠に。
きっと、多くの人もこれを読んで「解決したー」と思った人は少ないと思いますね。
このあとの展開が、本国に戻らなければいけなかったというのも含めてうまいと思いました。
そのため、本来のシナリオにはない部分を、いつもより長めに最後に挿入させてもらいました。
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最初から……ヴァナ・ディールの星唄 1